01年11月号 「True Conquerors 〜ドルアーガの塔:謎解きへの挑戦〜」
ファミコン世代も含め、多くの人にプレイされているであろう『ドルアーガの塔』。
しかし、真にこのゲームを遊んだと言えるプレイヤーは、どれだけいたのだろうか?
04/02/15 アップ
●本文
84年の夏、ナムコから発売された『ドルアーガの塔』。各フロアに隠された宝箱の出現条件を始めとして、アーケード史上ほかに類を見ないほど、難解な謎解き要素の多いゲームである。
発売当時は、そのアクションゲームとしての難度の高さと謎の難解さゆえ、一般プレイヤーや財力に乏しい年少プレイヤーは、比較的早い時期に諦めてしまうことが多かったようだ。しかし、それでもこの作品に対するゲーマーの注目度は非常に高く、自力で高次ステージの謎に挑むマニアはちょっとした英雄的存在だったのだ。アイテム表示欄が、見たこともない武器や宝石で埋まっている様を、羨望の眼差しで見つめた経験のある方も少なくはないだろう。
多くのプレイヤーは、マイコンベーシックマガジンや攻略系同人誌で解法が出回ったことにより、ようやくこのゲームで「遊ばせてもらえる」ようになっていった。もちろんそれは、ゲーム発売からかなりの期間が経過した後だったのだが……。
今回のオールドゲームミュージアムでは、メディアで解法が公開される以前に謎解きに立ち向かった、先駆者たちの戦いを振り返ってみることにしよう。
■情報戦
あるいは記憶している方もいるかとは思うが、本誌Vol.3の「創世記ゲーマー対談」ページに、『ドルアーガの塔』に関する、興味深い発言が掲載されている。
「〜それで、やっぱりナムコの遠藤さん(※1)あたりは、そこらへん巧妙に市場を見てたようでね。マニアの攻略が行き詰まってると、自分で気脈の通じてる何人かのマニアにちょろっと情報流してまた息吹かせると」
これは、当時の都内マニア事情に詳しい、ゲーメスト初代編集長・植村伴北氏の発言。要するに、ゲームの発売からさほど経っていない時期、開発者である遠藤雅信氏自らが一部のマニアに宝箱などの情報を与え、攻略が行き詰まって盛り下がらないように市場操作(※2)をしていた、ということである。
筆者はこの一文を読んだ時、少なからずショックを受けた。「やっぱり、発売直後からがんばっていたマニアでも、ノーヒントではクリア不可能なゲームだったのだろうか?」という積年の疑問が増大すると同時に、プレイヤーがこのゲームの謎(=開発者の意地悪)に屈したような気がして、他人事(?)ながらちょっと悔しかったのだ。
今回、この記事を作成するにあたり植村氏にインタビューをしたところ、「ヒント程度のもの(※3)だったかもしれないけれど」と前置きしつつも、「当時、開発者からごく一部のマニアに情報が与えられていたことは間違いない」と明言している。
発売直後の都内では、このような「情報」の恩恵を受けられる一部のマニア集団を頂点として周囲に情報が流れ、謎解きが進められていたというのである。当然、全60面クリア一番乗りも、開発者から情報を得ていたプレイヤーによるものだった可能性が極めて高いだろう。
そして、このような最先端の情報を握る一部のマニアたちは、容易なことでは外部に宝箱の出し方を漏らしたりはしなかった。筐体を仲間で取り囲み、よそ者はプレイ中の画面を見ることすら難しいという状況が、名門店ではザラにあったのである。
少々イヤらしい光景ではあるが、隠すプレイヤーの気持ちも、理解できる。情報的に有利なポジションにいるプレイヤーでも、1日1万〜2万円のペースでコインを投入することが決して珍しくなかった時期である。苦労してようやく発見した宝箱の出現方法を、メモ帳片手に目を輝かせている仲間でもないギャラリーの前で再現する気には、とてもなれなかったのだろう(※4)。
■偉業
宝箱の出現条件に関しては、かように熾烈な情報戦が繰り広げられており、都内の先端情報から遮断されていたマニアも少なくなかったようだ。当然、彼らは自力・ノーヒントで、まともに謎解きに挑むしか道はなかった……。
まともに謎解きをして、クリアできるゲームには到底思えないのだが、マニアとは恐ろしいものである。驚くべきことに、外部からの情報が入らない状況下で、仲間内だけの力で全面クリアまで漕ぎ着けたグループも存在していた。
筆者の知る限りでも、発売から2カ月かからずに自力クリア(コンティニューは有り)している人たち(※5)が存在していたのである。もちろん、彼らは全ての宝箱の出現条件を解明できたわけではないが、全面クリアに最低限必要な宝箱については、全て自力で解明したのだという。
ナムコ黄金時代に生まれ、アーケードはもとよりファミコン版も大ヒットしたこのゲーム、熱狂的なファンも多いが、批判されることも少なくないタイトルである。
確かに、理不尽で脈絡のない空箱の謎は、アーケードゲームというスタイルにそぐわないものに思えるし、それ以外にも不親切で分かりにくい点が少なくない(※6)。
世界観、BGM、そしてアクションゲームとしてのゲーム性など、強烈な魅力を持つ他の要素によって、プレイヤーは強引に宝捜しに駆り立てられていた、という印象さえある。
しかし、筆者を含め、攻略本片手に単なるアクションゲームとして遊んでしまったプレイヤーには、このゲームをあれこれ批判する資格は、端からないのだろう。この『ドルアーガの塔』というゲーム、アクションゲームとしての消費期限は無限大だが、謎解きゲームとしての賞味期限は、メディアに解法が載った時点で切れていたのである。賞味期限内に、自力で決着を付けることができた者だけが、このゲームを「やった」と言えるのではないだろうか。
●コラム(左ページ上段)
とんでもなかったアノ場面
(写真キャプション。全4枚)
■フロアー1:カギ、扉、ギルの出現位置の関係が悪いと、1面ですらタイムアップになってウィル・オー・ウィスプの餌食になる可能性が高い。いきなり運が試されるステージなのだ。
■フロアー10:レッドスライムの呪文を盾で受ければ宝箱が出るのだが、これまたスライムの機嫌次第では、とんでもなく手こずるフロアーである。近距離で呪文を誘ったあげく、背を見せた瞬間に撃たれて死亡するのがお約束。
■フロアー21:出現位置から移動して10秒ほど停止する、というのが宝箱の条件なのだが、いきなり高速のウィル・オー・ウィスプが出現するため、心臓に悪いことこの上ない。
■フロアー20:フロアー19のアイテム、ブック・オブ・ライトを取っていないと、迷路が見えなくなってしまうのだ! これはこれで妙にカッコイイため、フロアー19の宝箱が見つかるまでは「ここはこういうフロアーなんだ! スゲェ!!」などと感動していた人も少なくなかったようだ。
(植村氏写真キャプション)
植村 伴北
スペースインベーダーとの衝撃的な出会いがキッカケでアーケードゲームにのめり込み、後に会員数2800名を越す巨大サークル「VG2」を発足する。「VG2」というサークルは、今は亡きゲーメスト創刊にも深く関わっており、植村氏はその初代編集長を務めていた。『ドルアーガの塔』に関しては、「こりゃまずい」と感じて、自ら謎解きをしたクチではないとのこと。
●コラム(両ページ下段)
■※1:遠藤さん
遠藤雅信氏。当時ナムコに在籍しており、かの名作『ゼビウス』の開発に最も深く関わった開発者としても有名。ナムコ時代には『ドルアーガの塔』『グロブダー』等も手がけたが、後にゲームスタジオを設立して独立。アーケード版で続編の『イシターの復活』はゲームスタジオ時代の作品である。シリーズの完結編となる『ザ ブルークリスタルロッド』は、同社よりスーパーファミコン版で発売された。
■※2:市場操作
これを近代化したものが、同社『鉄拳』シリーズ等で見られる、「タイムリリース」のシステムであることは言うまでもない(やや本当)。隠しキャラや、それに関する情報を小出しにして、ゲームの話題性、寿命を延ばす手法のはしりである。『スターフォース(テーカン)』の100万点ボーナスや、『バブルボブル(タイトー)』の各種コマンドや隠しキャラ、『アフターバーナーII(セガ)』の隠しコマンドなども、同様のメーカー戦略で盛り上がった。
■※3:ヒント程度のもの
植村氏によると、例えば問題の31階だとしたら、「コンパネだけでなく、筐体のあらゆるところを叩いてみろ」といったようなノリだったんじゃないか、というのだが……さすがにこの辺までくると真相はどうなのやら、といった感じである。ちなみに、31階の宝箱の出現条件は「1Pスタートボタンを押す」というもの。当時はかなり凶悪な出現条件として多くのプレイヤーがあきれ果てており、発見の過程についてさまざまな逸話が聞かれる。
■※4:ギャラリーの前で再現する気には〜
あからさまに宝の出しかたを盗みに来ているギャラリーがいる場合、いかに出現条件を見抜かれないように宝箱を出すか、というのもトッププレイヤーの腕の見せ所だった(?)。可能な限り、出現地点をスクロールアウトした状態で宝箱を出すことと、それっぽいウソ動作を頻繁に混ぜ込むのが重要。筐体の横をコンコン叩いてからステージクリアしたら、それを見ていた小学生が後で真似していたなんていうのも、当時ごく普通に見られた光景である。
■※5:自力クリアしている人たち
筆者が現在済んでいる地元の古参プレイヤー。むか〜しゲーメストのライターだったこともある人で、仮にFIS氏としておこう(つーか、業界的にはバレバレか?)。彼らは都内にパターンを盗みに行っても、ブロックされまくりで収穫が得られた試しがなく、結果的に自力でクリアまで辿り着いてしまったらしい。使った金額も半端ではなかったそうで、FIS氏は「8月だけで10万以上使った気がする」と、遠い目をして語ってくれた。
■※6:不親切で分かりにくい点 その(1)
全体的に不親切のカタマリのようなゲームだが、まずハンパじゃないのが、デモ画面。タイトルロゴとスコアランキング画面が交互に表示されるだけで、なんとゲームプレイ画面のデモが一切流れないのである……って、それじゃどんなゲームか分かんねぇっつ〜の! 初めてこのゲームに出会ったとき「何のゲームだ?」とか思って、延々とデモ画面を見つめちゃったよ。ナムコだし、しょうがないから根負けして金入れたけど……。
■※6:不親切で分かりにくい点 その(2)
ゲームを初めてプレイするときにはとっても重要なインストラクションカードだが、これまたとってもシンプルで情報量を抑えた作りになっており……ってオイ! 最低限「剣を使うときはボタン押しっぱなしで」くらい書いてなくていいのか!? 1面で、ボタンちょい押しでグリーンスライムに切りかかって、思いっきり死んだぞ! 「タイミングが悪かったのかな〜?」とか反省しちまったよ! 俺だけなのか!?
(まはまん註:通常のインストは漫画風のコマ割りでストーリー(ギルが塔を登りカイを助ける)が解説されているだけ、操作方法等の記述は一切なく、またセリフは全て英語。一応、鍵や扉や宝箱は出てくるが、それをどうするか等は一切書かれていない)
(ポイント攻略法の掲載されたインスト画像のキャプション)
通常のインストだけではさすがにマズイと思ったのか、右のように多少詳しく遊び方が書いてある補助的なインストカードも存在していた。オレは見たことなかったケドね。
(まはまん註:こちらのインストは同じく漫画風のコマ割りだが、剣を出して敵を攻撃、盾で呪文を防ぐなどの基礎知識が描かれていた。宝箱のことも仄めかす程度だが描いてあった)